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技術情報

ソーラーカーの構成部分に関する技術的な解説を中心に更新していく予定です。初心者向けの一般的な物になりますが、リサーチや実際の開発で得た情報なども可能な限り公開していく予定です。

1.電気系

1.1 駆動系

ワールドソーラーチャレンジでは部分的に勾配はありますが、そのほとんどが平坦な直線道路であるため、通常はダイレクトインホイールモータが使用されます。減速機などを介さずモーターの回転部分に直接駆動輪が取り付けるため機械的ロスが限りなく低く、またメカトロニクス技術の進歩によりモーター自体のエネルギー変換効率が95%を超え非常に高くなっています。自作されているチームもありますが、現在は多くのチームが日本のミツバ製かオーストラリアのCSIRO-Marand製の物を使用しています。現在でも2KW定格の物が主に使用されますが、近年ではWSCのレギュレーション変更によって使用できる電力が激減し、巡行時の電力は1KWを下回るようになったので2017年の名古屋工大のように定格1KWの軽いモーターを使う選択肢も出てきました。

ミツバ M2096Ⅲ
日本の株式会社ミツバがソーラーカーのために開発したラジアルフラックスタイプのインホイールモーターです。筆者は使用した事はありませんが、特徴は専用に開発されたコントローラが付属しており、日本国内チーム向けの価格はコントローラー付きでこのクラスにしてはかなり良心的だと思いいます。
定格出力は2KW(最大5KW)で効率は一般仕様の物で95%、注文生産品なので回転方向や密巻オプションなどを選択できます。Nuonチームに供給されている物は96%と公表しているのでおそらく一般向け追加オプションで若干効率を改善した製品だと推測されます。一方実質ワークスチームとも言える東海大学と共同開発したものは、高効率アモルファスコアを使用して98%を達成しており近年では他のチームにも供給されているようです。コントローラーは120度通電タイプで直接可変抵抗を接続してコントロールできるようです。またテレメトリもCANのリクエストパケットを投げると各値が返ってくるようになっていると聞いたことがあります
CSIRO/
Marand
オーストラリアのチームオーロラと国の研究機関であるCSIROが中心となって開発した当時最高性能モーターで、1999年大会で初めてオーストラリアのチームに優勝をもたらしました。特徴はAxial Fluxタイプでハルバック配列の永久磁石を使用する事でモーター単体で98.4%の効率があるとしています。廉価版の通常磁石と鉄枠を使用した物でも97%程度の効率があるそうです。ただしこのモーターはコイルがコアレスタイプであるためインダクタンスが非常に低く、通常のモーターコントローラーで駆動するためには直列に外付けインダクタを入れる必要があり、そこで損失が発生する事になるのとコントローラーでの損失も発生するのでトータルでの効率はそこまでは出ていないと思われます。2015年大会では優勝チームのNuonやPunch Powertrainなどがミツバの一般向け製品にスイッチした事からも近年ではアドバンテージはあまりなさそうです。

CSIROのモーターはコントローラーが提供されないので、別途必要となるわけですが、多くのケースでTritium製のWeve Sculptor22が使用されます。本来専用ではないので付属ツールを使って極数やホールセンサーの位置、最大RMS電流などかなり細かくカスタマイズ出来るのでいろいろなモーターに対応できます。またミツバの物と異なりベクトル制御タイプでサイン波駆動を行うため、低デューティー時の効率低下がすっく無くなっています。実際にWSCでは坂も無く巡行時は絞り目で使用するため、ミツバモーターとこのコントローラーと組み合わせて使用するチームもあるそうです。唯一の難点は制御がCAN-BUSからしか行えない為、ドライバーからの入力をマイクロコントローラーで処理してCANパケットにして送信する必要があります。テレメトリもかなり細かい物までCANでブロードキャストされるので安全監視を行ったり、メインコンピュータを介さず直接表示部分のマイコンでCANトラフィックをスヌープして速度や消費電力などを表示させる事も出来ます。

 

1.2 発電系

1.2.1 太陽電池セル

WSCではいろいろな種類の太陽電池セルの使用が認められていますが、宇宙機に使用される最高性能の化合物トリプルジャンクションの物はシリコンと比べると一桁高価で一部の大型スポンサーを持つチームだけが有利になってしまうため2011年から許容面積がシリコン約半分程度に制限され、特殊な場合以外はシリコンタイプ一択となりました。シリコン結晶タイプの物は理論値の限界が30-35%程度で、2017年現在では量産されているサンパワーの物で25.3%程度と、頭打ちといわれながら毎年じりじりと効率が上がっています。電圧は化学組成によって異なりますが、通常のシリコンタイプの場合は1セルあたり開放で0.7V 最高効率点あたりで0.6V弱程度になるようです。電流はサンパワーの生セルサイズで6A前後と意外と大電流を取り出すことが出来ます。電圧は1枚のセルの大きさは関係ないので、カットセル(何枚にも割って直列につなぐ)だと電流は減りますが小さな面積で電圧を上げる事が出来ますのでコクピットで影になる部分を細かく分割して発電単位を細かくして影による影響を緩和しているチームもあります。

SunPower
C60/E60
アメリカのサンパワー社製のシリコン単結晶セルでWSCのデファクトスタンダードといっても過言ではないほどのシェアを持っています。正負両方の電極を裏面に配したバックコンタイプなので表面のシリコンに一切影ができず高効率を達成しています。第二世代のC50,C60,第三世代のE60の順に高性能となっていきます。後ろの数字はセルの面積を表していて、50の物はより角のカットが大きいため面積は小さくなりますが、縦横の大きさは同じです。同じ種類の中でもいくつかの効率グレードに分けられています。これは最初からそれを狙ったのではなく多量に作ってできたものを測定してグレードに選別した物です。bin.JEなどと別記されている記号がそうです。2017年現在で普通に買える一番効率のいい物で25.3%だそうです。
Panasonic
HIT

panasonic logoSANYOが開発した2層のアモルファスシリコンを使用したタイプのソーラーセルで現在もPanasonicに引き継がれ開発が続けられています。温度による効率低下が単結晶のSunpowerよりも緩やかで熱ダレを起こしにくいのが最大の特徴です。表面に細い金属のコンタクトを設けているためその部分で影が発生する事もあってかSunpowerの最高効率の物には一歩劣りましたが、WSCのような猛暑となる環境では効率低下の少なさが武器となります。WSCで使用しているのは東海大学のみで以前は量産型の選別品だったようですが、2017年大会は待望の研究試作レベルのバックコンタクトを使用したサンパワーに匹敵する効率の物が投入されました。

 

1.2.2 モジュール化方法

太陽電池はセルを直列に多数接続して1枚のモジュールに封入した形で使用されます。ソーラーカー用の太陽電池パネルは屋上発電のようなガラスを使用せず、底面と表面両方に薄い樹脂のシートを使用するのが特徴です。(以前は樹脂をスプレーするような方法も利用されましたが、現在ではフィルムを使用するのが主流です。)これは軽量化とボディー表面に沿って少しであれば曲げる事ができるという理由です。表面のシートは透過率が高く反射率が低い事が求められます。モジュール化は各チームで行う所もありますが、トップチームの多くはSuncat, ゴッヘルマンなどの専門業者に依頼するケースが多いようです。それらの業者は反射低減にノウハウを持っていて、反射を軽減するために表面にモスアイやピラミッド型の100nm単位の微細加工を行って反射を抑制したものは高価で、最高水準の物はモジュール化費用だけでフルサイズのセダン一台分ぐらいの価格になるそうです。微細加工を行ったものと透明の通常フィルムとでは4%ほどの効率の差があると言われています。これは変換効率ではなくその変化率なので、例えば24.0%と23.04%というように差は変換効率で約1%という事になります。モジュール化方法はいろいろと調べてみたのですが、あまりノウハウを表に出す所は無いようで情報は少ないです。わかったのは、透明表面材、EVAシート(接着シート)太陽電池、EVAシート、底面材という風に重ね、シリコンバッグなどで真空に引いてから炉で加熱し溶着するということです。EVAシートはブリジストンのEVASKYなどがよく使用されてるようです。表面材は反射加工無しの物で、3Mやデュポンの製品が実際に市販品に使用されている例を何件か見ました。反射防止加工については、溶剤を使用して薄膜を作るタイプの物は専用の機械が必要なようですが、薄膜ですので角度や波長によって特性が変わるので、ナノストラクチャを利用したもののような性能は出ないようです。

 

1.3.MPPT

まず初心者向けのMPPTの説明です。MPPTとはMaximum Power Point Trackerの略です。太陽電池を含む一般的な電池は、端子が開放(何もつないでない)時に最も電圧が高く、負荷を接続して電流を増やしていくと電圧が下がっていきます。電池から取り出せる電力は端子電圧×負荷電流で求められますが、太陽電池の場合は発生できる電力は太陽の加減で随時変わっていくので、最大限の電力を取り出すために常に電流値を最適な値に制御していく必要があります。これがMPPTが使用される理由です。実際にソーラーカーレースで使用されているMPPTは充電器も兼ねています。ソーラーセルからの出力はスイッチングタイプのDC/DCコンバーターで変圧されてバッテリーに直接接続されます。この昇圧比、つまり出力電圧を変化させる事でソーラーセルからバッテリーへと流れる電流をコントロールし最大電力点を維持、追従させているわけです。

次に逆側から考えると、パネルが同じ量の太陽輻射を受けていても、バッテリーの残量によって昇圧比は変わる事となります。これはバッテリー残量によって同じ電流で充電するのに必要な電圧が上がっていくためです。という事は日本のソーラーカーで最も多く使われていると思われる昇圧型MPPT(SPV1020など)の場合バッテリーが空の時の昇圧比は低く、バッテリーがフルに近い時の昇圧比はより高くなるという事がおこります。一般に昇圧型コンバーターの場合は昇圧比が高くなると効率が低下していく傾向があります。なるべく低い昇圧比で使いたい所なのですが昇圧型コンバーターには「最低昇圧比」というのがあって入力と出力の比は必ずそれ以上必要となります。というわけで昇圧型の場合にはバッテリーが空の時の最低昇圧比をぎりぎり満たす構成でそのグループのソーラーセルの直列数を決定すれば効率の低下を抑える事が出来ます。(実際にはスタート時を除けばバッテリーが満充電近い状態になる事はおそらくないでしょうから、そこまで気にする必要はないのかもしれませんが。)

一方で昇圧型の問題を克服すべく登場したのが、昇降圧型コントローラーです。今は亡きナショナルセミコンダクターが開発したSolarMagicというシリーズのチップセット(SM72442シリーズ)ですがTIに買収された現在もそのまま健在です。この方式は、コイルをH-Bridgeのように4つのMOSFETで挟み込む事で、ONにするFETスイッチの組み合わせで昇圧も降圧もできるようにした物です。当然昇圧型のように最低昇圧比は無いですし、昇圧比が1、つまり入出力電圧が全く同じ時はスイッチングを停止させ、別に設けたMOSFETスイッチで直結してしまうことで効率ほぼ100%で使用する事もできます。筆者は競技経験はまだ一度しかないですが経験豊富なチームであれば、もっとも長時間該当するバッテリー残量をこのポイントに持っていく事でさらなる効率アップがのぞめます。ただし現在ソーラーカー用の既製品はなく、柏会さんで開発中の物も時間がかかっているように見えます。WSCで使用予定があったそうですが、朝夕の日射の少ない時間帯に起動できなかったとかで使用を断念されたという噂を聞きました。自分のとこでぜひ開発してみたいんですがチームから予算を渋られています。回路は昇圧型で使われているSPV1020の物とはくらべものにならないほど部品点数が多くて回路も複雑です。朝晩少ない日射量でも動かせるよう、コントロール系の電源は足りないときはCANの12Vから流し込めるようにしておいた方がよさそうですね。

1.4.バッテリーマネジメントシステム(BMS)

これもまず初心者向け説明から。子供のころラジコンカーで遊んだ方はNiMHなどの電池を使用されてたと思います。充電器で満タン充電してあとは走らなくなるまで遊んで速度がでなくなって電池が切れたら終了だったんじゃないかとおもいます。NiMHの場合はそれでいいのですがWSCのソーラーカーに使用されるリチウム系のバッテリーの場合は、過充電すれば発火爆発し、過放電しても壊れて危険です。もちろん定格以上の電流を流しても発熱して危険ですので、常に各バッテリーセルの電圧や温度を監視してやる必要があります。バッテリーが制限値を超えたときはモーターを切断したり、時にはバッテリー全体をシステムから切り離したりします。

直列に接続された各グループの電圧をそろえるセルバランサーも必要となります。リチウムイオン電池はぜったいに過充電してはいけないのですが、直列に接続されたバッテリーは、個々の小さな製造時のばらつきから何度も充電、放電を繰り返すとだんだん残りの電池容量がばらついてきます。そうすると1つのグループはもう満充電なのにほかのグループがまだまだ充電できる(電圧が低い)ので、全体的には満充電のレベル達していない為充電が継続され、過充電になるセルが出てきて非常に危険です。というわけで各セルの電圧を監視して電圧が高いセルはそのセルだけを抵抗でショートさせて他のセルよりも多めに放電させて電圧レベルをそろえるように制御します。これがセルバランサーです。

チャレンジャークラスの場合は基本的にはセルバランサーを使うのはダーウィンの出発前日に満タンぎりぎりに充電する時くらいで、出発後は二度と満充電近くまで充電される事はないので作動することはおそらくないでしょう。クルーザーの場合も数回の充放電でバランスが狂う事はおそらくないと思います。

セル監視(CMU)

ソーラーカーのバッテリーセル監視で一番よくつかわれているのがこのLTC6804というチップだと思います。1チップあたり12チャンネルの電圧監視とパッシブ放電制御を行う事ができます。ボード設計が出来ないチームはリニアテクノロジ社からDC1894Bという評価ボードが発売されていますので、評価ボードをそのまま使うという手もあります。評価ボードはICだけで制御するマイコンが必要です。特に処理能力は不要なのでArduinoレベルの物で十分です。isoSPIバスの駆動チップの載ったシールドを作ってもいいし、Linduinoというリニアテクノロジー版の専用の物もDC2026Cという型番で売られています。(回路図が公開されてるので自分で使いやすい用に作り直してもいいです)制御ソフトはアデレードチームの物はアクティブセルバランサー付きなので、すべて内製で作りましたが、Linduino用のサンプルコードやライブラリが公開されているので、 パッシブの物ならそれらを流用したり改造して使用するのが簡単だと思います。Arduinoのコードなので敷居も低いです。LTC6804には上位のボードと接続するのにカスケードでつなぐタイプのLTC6804-1とトランス経由でパラレルに接続するLTC6804-2の二種類があるので購入の際は間違わないように。ちなみにアデレードチームは6804-1を使っています。アドレッシングの分のバストラフィックが減るというのが理由ですが実際には差はないのです。回路が若干変わるのとバスアクセスのためのファームウェアが異なります。

 

 

予告

2.機械系

2.1.サスペンション

2.2.開閉機構

3.空力系

 

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